気候変動関連の情報開示(TCFDに基づく開示)
金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、年次の財務報告において、財務に影響のある気候関連情報の開示を推奨する報告書を2017年6月に公表しました。企業が気候変動のリスク・機会を認識し経営戦略に織り込むことは、ESG投融資を行う機関投資家・金融機関が重視しており、TCFDの報告書においても、その重要性が言及されています。
株式会社鶴見製作所においても、気候変動関連の財務情報に関して、TCFD提言に基づいた「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「指標と目標」の4つの項目の情報開示を行っています。
ガバナンス
代表取締役社長を議長とするサステナビリティ戦略会議では、気候変動リスクを経営の重要事項と位置付け、サステナビリティ活動の中~長期的な戦略を策定・実践状況のレビューを行う議論をしています。サステナビリティ戦略会議の議論は、定期的に(年に1回以上)取締役会に報告し、レビューを受けることで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。
また社長室SDGs推進グループは、TCFDを含む気候変動に関する取り組みを管理・推進しています。

戦略
TCFD提言の「戦略」の項目においては、「2℃以下シナリオを含む様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえ、組織戦略のレジリエンスを説明する」こととなっています。2022年度の情報開示にて当社は2℃シナリオと4℃シナリオの2つの気候変動シナリオ分析を実施しました。
不確実な世界へのレジリエンスを確保するためには、より移行リスクが大きくなる1.5℃シナリオを検討する必要があると判断し、2023年度は世界観を再構築し、1.5℃シナリオと4℃シナリオを用いて2030年度時点のシナリオ分析を実施しました。
気候変動が鶴見製作所の事業に及ぼす影響を以下のプロセスで検討しました。

2030年までに影響を及ぼす気候変動関連項目のリスクと機会を抽出し評価しました。
TCFDで示されているリスク・機会の分類により、下表の項目が事業に一定の影響を与えると考えます。
リスクの分類 | リスク | 想定されるインパクト | |||
---|---|---|---|---|---|
リスク | 移行 | 政策/法規制 | 炭素税 | 生産 (自社生産) |
「Green Plan 2030」の達成に向け、企業活動のあらゆる側面から温室効果ガスの排出量削減に取り組むことで、炭素税が導入された場合には一定の影響はあるものの中程度の財務インパクトと想定される。 |
素材 (Scope3) |
サプライチェーン排出量の1割を占めるScope3のCat.1のうち、製品の素材となる金属材料等は製錬でCO₂を排出することから、炭素税が導入された場合、調達コストへの影響が大きいと想定される。 | ||||
エネルギーミックスの変化 | 地熱発電やバイオマス発電の拡大は売上増加への寄与が大きいと想定されるが、火力発電の減少は売上に対してマイナスの影響になると想定される。 | ||||
技術 | 電子機器の需要増加 | 効率化・自動化のために半導体等の需給バランスが崩れ、生産の遅延等が発生した場合は、案件失注による財務インパクトが想定される。 | |||
市場 | 材料価格の高騰 | 鉄鋼やレアメタルの需要増加による材料価格の高騰が、調達コストに大きな影響を与えると想定される。 | |||
顧客行動の変化 | 環境意識の高まりが、顧客の製品選択に影響を与えるため、従来品の売上に影響する可能性がある。 | ||||
物理 | 慢性 | 平均気温の上昇 | 気温上昇に伴う労働環境の悪化による離職率の増加や対策費用の増加が想定される。 | ||
降水パターンの変化 | 降雨強度の増加により洪水リスクが上昇し、対策費用が増加することが想定される。 | ||||
海面上昇 | 海面上昇により沿岸付近の施設では高潮対策が必要となり対策費用の増加が想定される。 | ||||
急性 | 異常気象の激甚化 | 近年多発している豪雨や台風の被害がさらに深刻化した場合、バリューチェーンが甚大な被害を受け、事業継続が難しくなる可能性がある。 |
機会の分類 | 機会 | 想定されるインパクト | |
---|---|---|---|
機会 | 製品・サービス | 降雨強度増加への対応 | 降雨強度が見直されることで、官民のあらゆる排水設備について更新や機能強化のための需要増加が想定される。 |
増加する電源への対応 | 新たなエネルギーミックスにて増加する地熱発電やバイオマス発電での真空機器の需要増加が想定される。 | ||
市場 | 顧客行動の変化 | 環境意識の高まりにより、省エネや節水に貢献する製品の需要が高まると想定される。 | |
CO₂回収技術の進展 | CCUS施設にて真空機器の使用が想定され、CCUSの進展とともに市場が拡大していくと想定される。 | ||
エネルギー源 | 再エネ導入・省エネ対策の推進 | 需要増加に繋がる評判上のメリットがあると想定される。 | |
レジリエンス | 部品の共通化・内製化 | 気候変動等によるサプライヤーの部品供給停止のリスクを下げることで企業の信頼性の向上と損失の回避が可能になると想定される。 |
TCFD提言に基づく情報開示では、2℃以下を含む複数のシナリオ分析が求められています。
鶴見製作所のシナリオ分析では、IPCCによるSSP1-1.9(1.5℃以下シナリオ)、SSP3-7.0(4℃シナリオ)、IEAによるシナリオや日本政府資料を参照し、1.5℃シナリオと4℃シナリオを設定・検討しました。

IPCC:気候変動に関する政府間パネル
IEA:国際エネルギー機関
- 2100年時点での平均気温上昇を1.5℃以下に抑える。
- 2050年までに世界のCO₂排出量ネットゼロを達成するために、厳しい規制や技術革新が行われる。
- 脱炭素社会への移行に伴う市場や顧客嗜好変化が事業に影響を与える。
- 2100年時点での平均気温が4℃程度上昇する。
- 世界の気候変動対策の取組みに差があるため、規制や技術革新は大きなものにならない。
- 気温上昇・降雨などの気候変動による社会の変化が事業に影響を与える。
炭素税や被災リスクなどのコントロールができない費用リスクと当社の利益機会となる水害関連やエネルギー関連の項目を重要項目として、インパクト評価しております。
リスク | 財務インパクト | 対応策 | 時間軸 |
---|---|---|---|
炭素税導入による生産への影響 | 中 | 生産におけるCO₂排出量は、企業成長に伴って増加するため、炭素税が課された際には減益インパクトが大きくなります。当社は自社の生産におけるCO₂排出量を2030年時点で50%削減することを環境長期目標「Green Plan 2030」で掲げており、太陽光発電設備の導入や再エネの利用拡大等の施策により、目標の達成と炭素税導入時の減益抑制を図っていきます。 また、炭素税の導入は仕入材料のコスト増加に繋がる可能性があります。この対応策としては、自社技術・サプライチェーンを含めた低炭素化の推進や、環境面や供給の安定性を含めて調達手法を見直していくなどの取組みを行っていきます。 |
短~長期 |
浸水被害等による生産拠点の操業停止・サプライチェーン寸断 | 小 | 2030年度時点(約1.5℃の気温上昇)での洪水発生頻度は約2倍と予測され、洪水被害額は各生産拠点の売上高とハザードマップでの想定最大規模から、当社および主要サプライヤーの洪水被害リスクのインパクト評価を行っています。 洪水被害リスクへの対応策としては、自社・工場における電気設備のレジリエンス強化や部品の共用化・内製化の推進、継続的なBCMの実施・維持などの取組みを行っていきます。 |
短~中期 |
機会 | 財務インパクト | 対応策 | 時間軸 |
---|---|---|---|
降雨強度増加による販売機会の増加 | 中 | 2030年度時点(約1.5℃の気温上昇)での強度変化は1.1倍と予測され、国の降雨強度の基準に影響を与える可能性があります。この影響は、雨水排水設備の更新・機能強化の案件数/発注金額の増加といった、受注しやすい環境への好転に繋がります。レンタル業界において、雨水関連工事や雨水暫定対策、浸水被害復興向けの増加も考えられるため、増加するニーズを獲得していくための製品開発やS&S体制の整備などを行っていきます。 | 短~中期 |
エネルギーミックスによる販売機会の増加 | 小 | エネルギーミックスによって化石燃料への依存の縮小と再エネ利用の拡大が予想されます。これに伴い、火力発電への依存度低下により国内・VPの両部門は減益インパクトを受けることが想定される一方で、地熱・バイオマス発電への真空ポンプ需要や太陽光発電に付随する雨水調整池への水中ポンプ需要、原子力発電向けの製品需要などが増益インパクトとして想定されます。 また、東南アジアでの地熱発電の増加はVP営業部の販売機会を増加させるものと想定しています。 |
中~長期 |
リスクマネジメント
鶴見製作所は、気候関連問題を経営上の重大な影響を及ぼすリスクとして位置付けています。
中長期的な市場変化、環境の変動をシナリオプランニングによって分析し、特定した機会・リスクは、サステナビリティ戦略会議と取締役会を通じて、適切に管理しています。
指標と目標
- 1.自社の活動における温室効果ガス排出量を2030年までに2014年度比で50%削減する。
- 2.サプライチェーンの活動における温室効果ガス排出原単位を2030年までに2014年度比で30%削減する。
鶴見製作所は、企業の持続可能性と社会的責任、そして私たちが果たすべき使命のために、環境長期目標「Green Plan 2030」を掲げております。
「Green Plan 2030」の達成に向け、企業活動のあらゆる側面から、長期的な温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいます。
2022年度 気候変動に関わる主な取り組み
- ◎ 環境長期目標『Green Plan 2030』の開示
- ◎ TCFDフレームワークの推奨開示項目に基づき、財務影響度を定量、定性開示(1.5℃シナリオと4℃シナリオ)
- ◎ CDP気候変動への回答および情報開示(C評価)
- ◎ 四国支店・高崎営業所の再エネ切替え(大阪本店、東日本ロジスティクス、東北支店は2021年度までに切替え済)
- ◎ サプライチェーン排出量のScope1・2・3の算定・把握